吹奏楽のクラリネットは1st、2nd、3rdで三和音を作ることも多い。
その三和音が濁っていたり、ワンワンワンワンと唸ってしまっていると、指揮者から「よく聞いて」「もっと合わせて」と注意される。
(そして私はムッとする。こちとら頑張ってんだよー!と心の中で叫ぶが、しょうがないのでチューナーをいそいそと出す)
じゃあチューナーを見てどうやって合わせるか?
チューナーの針が、ド真ん中に来るように音程を調整する?けれどこれだけだとワンワンワンワン唸ることは無くなっても、ハッとするような美しい和音は作れない。
そもそも「ド真ん中」は何を意味するのか。それは平均律(十二平均律※)を基準に音を合わせることを意味する。
(理屈はすっ飛ばしてまずは実践したい方は、「3 体感しよう」に飛んでください)
平均律
「楽典 〜理論と実習〜」p15~p16より
平均律とは、1オクターブを12の平等な音程に分割して、それを半音と定めることを基礎とする。そして、半音の2倍を全音とし、以下全ての音程は、半音を集積したものとして扱う。
ふむふむ、よく分からん。続きを読もう。
平均律の利点:一定の楽器で、何調を演奏しても、均質な響きが得られるのが、平均律の最大の長所である。
平均律の欠点:各半音は、感覚的に1オクターブを12等分したものなので、実際の振動数の比は、12乗して2になる数、つまり1.05946……である。これは無理数であって、オクターブの場合を除いて純正音程の3/2や5/4などに一致しない。したがって何調の何和音を演奏しても、完全に調和した(純正な)響きは得られない。これが欠点である。しかし、この欠点、つまり不協和の度合いが、どの音程についてもほぼ均等に微小であり、利点の方が圧倒的に多いので、この十二平均律が世界に普及したのである。
ふむふむ、ともかく平均律はどんな調のどんな和音も均質に作れる便利さの反面、純正な響きは得られないってことか。なるほど、分からん。
チューナーで三和音をそれぞれ真ん中に合わせれば、もちろん耳障りでも無い。けれど、これは「平均律」で合わせた和音になる。
平均律だと
完全に調和した(純正な)響きは得られない
となれば、どうすれば完全に調和した響きはどうすればできるのか。
純正律
楽典p13~p14より
純正律とは、純正音階をもって音階を構成する方法である。
人間の耳は、2音の振動数が簡単な比になっているほど協和して感じ、複雑な比になっているほど不協和に感じる性質を持っている。
ふむふむ、よく分からん。続きを読もう。
純正律の利点:たとえば、C durの純正な音階に調律されたピアノがあるとする。この楽器で、C durの曲を弾くとすべての主要三和音が純正な音程によるものであること~中略~平均律では得られないきわめて美しい響きが実現するのである。
純正律の欠点:C durの純正音階に調律されたピアノでD durの曲を演奏しようとすると不協和な響きになる~中略~ある調の音階のために調律した楽器は、他の調の演奏などに際して、不都合を生ずる。
純正律音階なら、上の楽譜のようにドとミとソがそれぞれ簡単な比率になれる。簡単な比になっているほど美しく感じることから、無理数だなんだの複雑な比率になる平均律音階のドミソ和音より、美しく感じる。ってことか。
体感しよう
理屈はともかく、ドミソで純正律の和音を手軽に体験してみよう。
必要な人 | 3人 |
必要なもの | クラリネット、チューナー |
体感しやすいドミソは、チューニングB♭のドと、それより上のミとソで作るドミソである。
方法は
ド | チューナーぴったりで合わせる。 |
ミ | チューナーぴったりよりもマイナス13.7セント |
ソ | チューナーぴったりよりもプラス2セント |
としたとき、純正律の和音となる。
まずはドはチューナーで真ん中に合わせる。
ソはほんの少し上に。難しければ真ん中でとりあえずは問題ない。低くはならないように。
1番重要な役割をするのミ。13.7セント下げるには、指でやる方が楽かと思う。まずはチューナーで真ん中になるようバレルの抜き差しをしておく。
そして左手小指で運指表の青矢印のキーを押さえる。チューニングB♭の替え指のキーだ。
押すと、ミの音程が下がるのが分かるだろうか。
ここまでで準備はオッケー。
では以下の楽譜を吹いて平均律と純正律の違いを体感しよう。
1小節目:ドミソを同時に鳴らす。この時、ミは左手小指は使わずチューナーの真ん中の音程の方を吹く。
2小節目:ドとソの人は吹き続け、ミの人が左手小指を使い音程を下げる。
1小節目は平均律、2小節目は純正律。切り替わったときに、和音が澄んだことが分かっただろうか。
もしあまり分からなくても、何度か試して、それぞれの音程が狙い通りかも調整してチャレンジしてみて。
なお、1番決め手となるミの下げ幅の13.7セントの場所は、チューナーによってはマークが付いているから目安にして。
画像のチューナーはKORGのチューナーTM-60だけど、商品説明にもしっかりと「純正な長/短3度の音程を示すマーク付き」というのが載っている。
ブラス・バンドやオーケストラで合奏を行うとき、特にハーモニーのずれを感じやすい3度和音も、長3度と短3度のピッチを平均律から少しずらすことにより、耳に心地よい響きを得ることができます。
TM-60のメーター・スケールには純正な長/短3度の音程を示すマークが入っており、それぞれのマークに指針が合うようにチューニングするだけで、アンサンブル時に美しいハーモニーを奏でることができます。
チューナーは身近な存在だが、このマークの意味を知らない人もいるので、ドヤァして下さい。
まとめ
現代のピアノは平均律で調律が行われる。ピアノは演奏中に調律を変えることができないが、クラリネット(や他の管弦楽器)はそのときそのときで音程を変えられる。演奏者が自分の音感を元に(時にはチューナーの助けを借り)音程をつくる作音楽器である。
音程は悩みのタネではあるが、純正な和音を作れる楽しみもあるということ。
指揮者にチューナーを投げつけるのも良いが(ダメ)、せっかくだから楽しもう。
※なぜ13.7セント下げるのかを知りたい方は、もっと詳しいサイトでお調べください。
※楽典では十二平均律と記載がありますが、馴染みのある言い方の平均律にしています。